スカイフィッシュ。
欧米ではその棒状の形態からフライング・ロッド (Flying Rods) あるいは単にロッド (Rod) と呼ばれることが多く、1995年、ビデオ編集者のホセ・エスカミーラが仕事中にビデオ映像をコマ送りすることによって発見した。
ビデオカメラや写真には写るが、実際に捕獲された報告のないことから話題となり、日本を含め各地で同様の事例が報告された。
そして、日本においては
兵庫県の六甲山で目撃情報が多数ある。
さらに、この記事によると
何と、人を襲うというではないか。
こんな恐ろしい生物がこんな身近にいたなんて…!
一人の男が、立ち上がった。
ぽち丸。山の専門家でも生物学者でもない、神戸に住む普通の勤め人である。
趣味は山登り。六甲山にも、これまで幾度と無く登頂している。
「こんな危険な生物が居るなんて、今まで知らなかった…こいつを野放しにしていては登山者が危険だ!」
しがないサラリーマンが、愛する山を守るため、世界初のスカイフィッシュ捕獲に挑む!!
これが、六甲山で目撃されたと言うスカイフィッシュの模型である。
なんと禍々しい姿であろうか。
模型と言いつつ、思いっきりそこらの小学生が書いたみたいな絵に見えるのはきっと気のせいだろう。
怖がらせようとしてるんだか笑わせようとしてるんだか分からないこの記事を読んだぽち丸は、さっそく現地に向かった。
雑誌で最も目撃例の多かった地獄谷。
六甲山における最難所と言われる秘境である。
ぽち丸にとっても、初めての場所だった。
道らしき道など存在しない、手付かずの自然。
がむしゃらに山を歩いた。
切り立った崖。しかも、水が流れている。
岩の出っ張りに手足をかけて何とか登った。
条件は、最悪だった。
慎重に足場を選びながらの遡行。
スカイフィッシュを探しながらの行動。
いつもの倍の時間が掛かった。
滝に出た。
「え゛っ…これ無理じゃね!?」
ぽち丸に、焦りの色が見えた。
近づいてみると、ぽち丸の身長の倍以上もある崖だった。
迂回路やハシゴも見当たらない。
すでに3時間以上山を歩き、疲労は限界に達していた。
当然、スカイフィッシュにも遭遇できていなかった。
目の前には切り立った崖。
ここまでの道のりは3時間。
これ以上ここに滞在していては、夜になってしまう。
夜になってここを歩き回るのは、危険すぎる。
怪我や遭難。下手をすれば、死ぬ事も充分に考えられた。
そして、未だ遭遇していないが、スカイフィッシュが人を襲うと言う話も気になった。
決断を、迫られた。
無念の、撤退だった。
敗因は、準備不足だった。
地獄谷に対する知識も、スカイフィッシュの生態に対する知識も、登山用の装備も、技術も、何もかもが足りなかった。
ただ、初期衝動だけでがむしゃらに歩いていた。
登山口の茶屋で水を飲みながら、ようやくひと息ついた。
「俺は何も知らずにここに来た…認識が甘かった」
悔しさをかみ締めながら、独り言を呟いた。
飲んでいる水は、なぜか、塩味だった。
(続く)
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