前回までのあらすじ
スカイフィッシュ捕獲を目指したぽち丸だったが、地獄谷の険しい崖に阻まれ、失敗に終わる。
失意のまま山を降りたが・・・
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悔しかった。
地獄谷に関しても、スカイフィッシュについても、何一つまともに知らなかった。
完全な準備不足。
翌日から、ぽち丸は地獄谷の岩山を攻略すべく、ロッククライミングのジムに通いだした。
しかし、全く思うように登れない。見た目よりはるかにハードなスポーツだった。
1ヶ月、2ヶ月と通いつめても、地獄谷を攻略できる自信はつかない。
焦る気持ち、ついて行かない体。苛立ちがつのった。
苛立ちを、毎日のように(ピー)行為で紛らわした。
最中は全てを忘れられるが、事後になると空虚感が心を満たした。
そんな時、日課のオカズ探しをしていたぽち丸が、エロ通販サイトでとある本を見つけた。
衝撃が走った。
「そうか…そう言うことだったのか!登るのがダメなら、落ちた時にケガしなければいい!」
逆転の発想だった。
翌日から、ひたすら受身の練習をした。
そして、最終的には
五点着地を習得するに至った。
地獄谷はこれで攻略できる!
にわかに、自信がついた。
五点着地の練習と同時に、スカイフィッシュについても調査した。
目撃される時間、場所、生態、いままで捕獲しようとした人間も多数居たが、彼らの手法も研究した。
調査を進めるうち、とあるものを見つけた。
もごし。
スカイフィッシュ捕獲の専門器具である。
これがあれば、スカイフィッシュ捕獲がにわかに現実味を帯びてくる…!
ぽち丸は、早速販売業者に電話をかけた。
「もう生産は終了してるんですよ」
業者の返事は、つれないものだった。
しかし、そう簡単に諦められない。ぽち丸は、粘った。
そして、ついに業者が折れた。
在庫はないが、もごしを生産していた京都の職人を紹介してくれた。
ぽち丸は、直接京都へ出向き、職人の工房を訪れた。
「悪いが、ウチは専売契約してるんでねぇ。遠いところ来て貰って悪いが、アンタには売れないんだ」
ここでも断られた。
ここまで来て引き下がれるか。ぽち丸は、土下座して頼み込んだ。
「仕事の邪魔だよ、帰ってくれ」「いい加減にしろ」「売れないものは売れない」
何度も追い払われた。ぽち丸は、毎日工房を訪れて土下座し続けた。
ある日の事だった。
「毎日こられても、ウチと専売契約してるお客様を裏切るわけにはいかない。悪いが、帰ってくれ」
いつも通りに断られた時、一人の職人見習いが、工房にもごしの材料を運び込んでいた。
「おい、お前」
親方は、見習いに声をかけた。
「お前もそろそろ一人でもごしを作ってみろ。しかし、半人前が作ったようなもんを納品するわけには行かないから、俺に見せた後は捨てるなり誰かにやるなり好きにしろ」
「それとな、お前が今持ってる材料、モノが悪くて使えたもんじゃないから捨てとけ」
親方は、それだけ言い残して工房に帰っていった。
見習いが持っていた材料は、工房で使う素材の中でも最高品質のものだった。もちろん、問題などどこにもない。
客の信用を大事にする職人気質な親方の、不器用ながら精一杯の心遣いであった。
ぽち丸は、見えなくなった親方の背中に、深く頭を下げた。
製作を任された職人見習いは、すぐに製作を開始した。
見習いとは言え、この道10年の一番弟子。
製作に、力が入った。
慎重に製作を進めていく。
ぽち丸も毎日工房を訪ね、見習いと意見を交わしながらより捕獲しやすいもごしを作っていった。
職人見習いは、後に語った。
「私には親方のような伝統の業はまだありませんから、アイディアで勝負しようと思ったんです。業者さんに納品する規格品じゃないから、思い切って前から考えてノートに書き溜めたアイディアを出して。ぽち丸さんの意見も取り入れて、自分で最初に作ったもごしを自分の職人人生最高のものにしようと思ってました」
もごわっぱの部分を慎重にむかぎで微調整する。
この調整でもごしの性能の半分が決まると言っても過言ではない、重要な作業だった。
こうして、三本のもごしが完成した。
画面手前から、
カケの面積が広くカエシが浅いため、掛かったスカイフィッシュが逃げやすいが掛かりの数は多い「松田聖子」
カケワクが大きいため小物は素通りするが、中の方でバチが大きくなっているため大物が掛かりやすい「女子アナ」
もごわっぱ部分が長くカエシが深くバチが小さいので、掛かったスカイフィッシュが多少暴れようがもごし自身がどれだけ汚れようが、一度掛かった獲物は絶対に逃さない「
加護亜依」
職人見習いが、心血を注いで作り上げた3本だった。
「職人見習いさんは自分の仕事をきっちりとやり遂げた。次は、俺の番だ」
ぽち丸は、出来上がった三本のもごしを携え、再び地獄谷を目指した。
(続く)
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