前回までのあらすじ
幾多の挫折や艱難辛苦を乗り越え、男はついにスカイフィッシュ捕獲野営地にたどり着く。
果たして、スカイフィッシュは捕獲できるのか!?
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やがて、夜が訪れた。
いよいよ、ここからが本番だ。ぽち丸は、慎重にもごしをセットした。
風向きや風速、天候、湿度などを勘案してもごしの配置を決める。
もごしをはじめて使うぽち丸であったが、先人達の失敗した経験を下敷きに、出来得る限りリアルなシミュレーションを行った。
通常、もごしは中央に餌となるゆで卵を置き、その周りに円を描くように配置する「円形設置法」が一般的であるが、今回の土地形状や風向きなどから、「並列配置法」を選択した。
定点カメラを設置し、寝ている間の様子を撮影する。
1時間ごとのタイマー撮影と、フレーム内で何かが動いたときにシャッターが切れるセンサー撮影をセットし、就寝した。
1時間後。
特に気になるものは写っていない。
2時間後。
まだ、何もおかしいものは写りこんでいない。
3時間後の映像。
やはり、スカイフィッシュらしきものは写りこんでいない。スカイフィッシュらしきものは何も写りこんでいない。
大事な事なので2回言いました。
このまま何事も無く夜が明けてしまうのか…?そう思った瞬間だった。
1時間おきにシャッターを切るタイマーではなく、動体センサーの方が反応した!
もごしの周りを、何かが弧を描きながら飛び回っている。
どうやら、発光もしているようだ。
まさか、これがスカイフィッシュなのだろうか…!!
動体センサーは、合計で3回反応した。
スカイフィッシュらしき飛行物体に反応したのだろう。
それ以外に動いているものは無い。動いているものなんて絶対無い。大事な事なので2回言いました。
これは一体なんなのだろうか。いずれも、もごしをかすめているように見えるが…
やがて、うっすらと夜が明け始めた。
眼下に見える神戸の街が、朝焼けに包まれる。
清々しい朝だった。
ぽち丸は、起きると同時にもごしの様子を見に行った。
もごしに、何かが掛かっている…!!
急いで近寄ってみる。
何か、布状のものが掛かっている。
掛かっていたもごしは、一度獲物が掛かるとどれだけ暴れてももごし自身がどれだけ汚れても壊れても絶対に獲物に食らいついて離さない、「加護亜依」だった。
手にとって見た。
まるで不職布のような手触りだった。
ほんのりと、香料のようなにおいがした。
これがスカイフィッシュなのだろうか。一般的に紹介される写真や絵とは少し違う。
広げてみると、ハンカチ程度の大きさだった。
これがスカイフィッシュなのかどうかは分からないが、少なくとも世間一般で言われているスカイフィッシュとは大きく形が異なり、生物のようではない。
食いつく相手を間違えてる事に薄々気付いているにも関わらず、どれだけ自身が汚れようが壊れようが離さない離れない。
さすがは「加護亜依」であった。
「きのう風呂に入れないから寝る前に使った汗ふきサラサラシートのゴミ、どうしたっけ?」
なぜか、スカイフィッシュとは全く関係ない思いが頭をかすめたが、深く考えない事にした。
結局、スカイフィッシュを生きたまま捕獲する事はできなかった。
収穫はサラサラシートスカイフィッシュかも知れない
サラサラシート謎の布のようなもの1枚だけ。
それでも、どこか満ち足りた朝食だった。
山だけどシーフードだった。
神戸の街が、徐々に起きて行く。
幻想的な光景だった。
「次は必ず捕獲してみせる」
ぽち丸は、朝焼けに誓った。
あの作戦から数ヵ月後。
地獄谷に、ぽち丸の姿があった。
あれから、ほぼ1月に1度のペースでスカイフィッシュ捕獲野営地に足を運んでいる。
「あの後、職人見習いさんも親方に認められて、のれん分けして自分の工房を持ちました。今や親方です。そののれんに、箔をつけなきゃいけませんからね。必ず捕まえますよ」
いつか、スカイフィッシュを捕獲するその日まで
挑戦は、終わらない――――。
(完)
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