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こんにちは僕ぽち丸。
うちの会社の周りって、駅から離れてる港湾地帯なもんで、倉庫やら工場やらばっかりで本当に何もないんですよ。具体的には、飲食店がほとんどない。
ってなわけで、会社帰りに飲みに行ったりとか昼飯どっか食べに行こうとかほとんどなくて、1食350円のくそマズい弁当屋が毎日届けに来るんです。
まあ1食350円とは言え、毎日食ってると結構な額になるわけで、僕は自分で弁当作って行ってるんですけどね。まあ弁当作るのも面倒なわけで、だいたい前日の晩飯の残りを弁当箱に突っ込んでるだけなんですよ。
んでまあ、前日の晩飯が鍋とかだったら当然残り物も出ないわけでして、そう言う時は仕方ないからコンビニで買っていったり外に食べに行ったりするんですよ。
会社近くの本当に数少ない飲食店のひとつに、汚いラーメン屋がありましてね。
まあラーメン屋つっても、ラーメンってノレン出してるくせにラーメンのメニューが担々麺しか無いんですよ。
その癖、チャーハンは「チャーハン」「ガーリックチャーハン」「高菜チャーハン」「キムチチャーハン」「ピリ辛チャーハン」なんて5種類もありましてね。ピリ辛チャーハンとキムチチャーハンって分ける必要あんのかよって感じなんです。
そんでまぁ、そのラーメン屋と名乗る担々麺屋だかチャーハン屋だかなんですが、これがまたマズいのよ。
どんぐらいマズいかっつーと、港湾にある数少ない飲食店で、競合は少なくて客は多いはずなのに、昼飯時に3組以上客が入ってるの見たこと無いぐらい。他の店は前の道路に4tトラックだのコンテナヘッドだのわんさか並んで公道封鎖するぐらいの勢いではみ出してるんですけどね。
僕は順番並んで待つのが大嫌いなので、外食するときはいつもそこ行くんです。
んで、そこの担々麺がまた辛いのなんの。
辛さが「小辛・中辛・大辛」の3段階から選べるんですけど、辛いの大好きで一緒に飯食いに行った人に「大丈夫それ!?痔になるぞ!」とご飯食いながらアナルの心配されるくらい何にでも一味をかけちゃう僕が、小辛しか食べられないくらい辛いんです。しかもまずい。
てなわけで、いつもどおり担々麺小辛とチャーハン食ってると、お客さんが入ってくるんですよ。
まずはいってきたのが、中国人の二人組み。
中国人特有のでっかい声で何やかんや喋りながら入ってきたわけです。
その直後に、ちょっと肌の黒いスーツの外人が入ってきましてね。多分、インド人だと思うんですよ。
店主
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テーブル
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中中 印 ぽ
こんな感じでカウンターに座る3人。中国人とインド人は知り合いではないようです。
これはこれは、面白くなってきました。
片や、担々麺の本場・中国の二人組み。この二人は作業服着てたので、多分そこらの工場の人だと思うんですけどね。
元々、担々麺は中国・四川省の苦力(肉体労働者)が昼からの仕事でバテないように考案されたスタミナ食だそうです。
つまり、まさにこの二人の中国人労働者のための食べ物。担々麺はこいつらの為にあると言っても過言ではない立場の二人です。
対するは、「辛い食べ物」の代表格であるカレー発祥の地インドからの刺客。
インド料理と聞いてカレー以外がすぐに浮かんでこないくらいのカレー王国。
果たして、日本が生んだキチガイじみた辛さを誇る担々麺は、黄河・長江が鍛え上げた「本物」に、ガンジスの悠久の流れが育んだ「怪人」に、勝つ事ができるのか!?
まずは先に入店した二人が動いたぞ!
一人は中辛、そしてもう一人は大辛を注文だぁ!!
時々しかこの店来ないけど、真顔で「大辛」を注文する奴はじめて見た!!
そして続くはインド人、すかさず、そしてさも当然のように「大辛」を注文!
さぁ、店主も未曾有の事態に困惑気味だ!
多分普段は1日1杯出るかどうかの「大辛」が一気に2杯も出たわけだ。いや、もしかしたら、普段ガラガラなもんだから3杯いっぺんに注文きて慌ててるのかも知れない。いつもに増して調理がぎこちないぞ!
ようやく作り終えた店主、カウンター越しにどんぶりを手渡していきます。
まずは中国人二人組み。
店主「お待ち」
どんぶりを受け渡すその手が、まるで試合開始の合図としてグローブを重ねるボクサーのように交差されます。
パキッ
二人の中国人が、先ほどまでの大声を潜め、完全にシンクロした動きで割り箸を割ります。
緊張の一瞬。
店主も、インド人の担々麺をつくりながら横目でチラチラと様子を伺っています。
俺が人生を賭けた担々麺は、本場に通用するのか・・・!?
やがて二人が、麺を持ち上げ、すすりました。
ズルズルズル・・・
・・・
おお、何という事でしょう!中辛中国人はおろか、大辛中国人も何も言わず食べているではありませんか!
そして余裕のパフォーマンスなのか、二人は再び大声で喋りはじめました!これには店主も心なしか苦い顔!
君が到達した辛さは、我々が二千年前に通過した場所だ!
そう言わんばかりのハイペースで食べ続ける中国人二人!!
そうこうしてるうちにインド人の担々麺が出来上がりました。
カウンター越しに受け渡し。
インド人「ドモ」
おーっとインド人、中国人二人を見て余裕と悟ったか!?店主の眼を見ながらつぶらな瞳で声を掛けます!
さあ、このインド人には担々麺が通用するのでしょうか!?インドカレーも辛いとは言え、カレーと担々麺では辛味成分が異なります。そこが勝負の分かれ目でしょう。
ズルズル・・・
ピクリ
おっと!インド人が片眉を上げています!これはもしかして
「やべ・・・俺やっちゃったかも・・・」
と言うサインでしょうか!?店主の顔が少しニヤっとした気がします!
おっと、中国人チームに動きがあった模様です。
先ほどまで軽快に弾んでいたトークがストップしています!これはどうした事でしょう?
中国人(大)は額に玉のような汗がにじんでいます!
「最初はいけると思ったけど食い続けてたらヤバくなってきた・・・」という事でしょうか、一度箸を止めたが最後、二度と食べ始められないといった様子で一心不乱に食べています!
そして中国人(中)は・・・
・・・おーっと、ここで大技が炸裂だぁー!!
中国人(中)、どんぶりを持ち上げてスープを口飲みしているー!!
辛いの大好きなぽち丸が、小辛ですられんげで一口ずつしか飲めないスープを飲み干そうと言うのか!
これは危険極まりない!この技が決まれば店主は完全敗北!しかし失敗すれば挽回できないオールオアナッシングの大きな賭けだ!!
おっと!?ここで中国人(中)がビクっと体を震わせた!何かトラブルでしょうか・・・?
・・・あーっと!中国人(中)ムセているー!!
恐らく激辛スープが気管に入ってしまったのでしょう。ゲッホゲッホと涙をにじませながら苦しそうに咳き込んでいます!店主も苦笑いでおしぼりを持ってきたー!
やはりスープ直飲みは大きすぎる賭けだったのか!一番ハードルが低いはずの中国人(中)、ここでリタイアです!
さて、残るは中国人(大)とインド人です。
ここでインド人の様子を見て見ましょう。
フンハッ・・・フッヒ・・・
奇妙な吐息をしながら眉間にしわを寄せています!汗をぬぐってを水飲み、何とか耐えようとしていますが・・・
おっと!舌だ!舌が出たぞー!!
インド人が真夏の犬のように舌を出しながら浅い息を繰り返しています!ガラムマサラなど香辛料の辛さはドンと来いなインド人ですが、山椒と唐辛子の辛さにはそこまでの耐性は無いのでしょうか?
ゆっくりとおしぼりで汗をぬぐうインド人!そしてどんぶりを持って・・・遠ざけたー!!どんぶりを少し遠ざけましたインド人!!
この行為はラーメン規定第171条3項によると、「継戦の意志なし」と見なされリタイアとなります!
幼少よりカレーに慣れ親しんできたインド人、麺は食べきったものの、大量のスープを残してここで無念のリタイアー!
恐るべしは担々麺大辛!
まさにインド人もビックリです!!
さあ、残るは中国人(大)のみ!俄然注目が集まります!
スープ直飲みと言う大技を披露した中国人(中)とは打って変わり、れんげで少しずつ、堅実に食を進めております。
おっと?ここで中国人(中)が中国人(大)に何事かを話しかけております。自分のどんぶりを指差しておりますが・・・?
同郷の中国人(大)に何かしらのアドバイスでしょうか?
中国人(大)が何気なくれんげを中国人(中)のどんぶりに突っ込んだ!そしてひと口すすっています!
これはサッカーで言うところのユニフォーム交換に当たるスポーツマンシップ行為!
自分の戦いはまだ残っているのも関わらず、中国人(中)の健闘を称えています!美しい光景だー!!
しかし、そのどんぶりはさっき中国人(中)が盛大にムセていたぞ!きっと色々入ってると思われますが平気でしょうか中国人(大)!
・・・おや?だがしかし、様子が変だぞ中国人(大)?首をかしげて中国人(中)に何か囁いています。
ここで中国人(中)が中国人(大)のどんぶりにれんげを入れてひと口味見しております!これは、普通のエールの交換には見えませんが・・・?
ここで中国人(中)、眉間にしわを寄せてカタコトの、小さいながらもはっきり聞き取れる大きさで呟きました。
中国人(中)「一緒ヤン・・・」
おーっと!これは衝撃だぁー!!何と、あろう事か、担々麺中辛と担々麺大辛の辛さが同じだという事でしょうかー!!
これは博多、札幌、横浜、喜多方、熊本、などのラーメン常任理事都道府県が締結したジンバブエ協定を無視した重大なルール違反だー!!
完全敗北したと思われた中国人(中)とインド人、まさかのノーカウント!!
おっと、ここで中国人(大)も箸を置きました!スープが少し残っていますが、没収試合となったため結果はIRA(International Ramen Association)世界ランキングには反映されません!
まさかの結末を迎えた世紀の一戦、皆様いかがでしたでしょうか。
手に汗握る攻防、二転三転する状況、そして衝撃の結末。
いつしか二人の中国人、インド人、そして僕の間に、奇妙な友情が芽生えつつあるような気がするかも知れません。
このラーメン屋には、間もなくIRAの監査と制裁が加えられることでしょう。
結果は没収試合でノーカウント。しかしながら、そこで育まれた友情は、一本の麺のように太く確かな絆として僕たちを繋いでいるのです。
「いつかこの店で、また会おう」
言葉に出来ない約束を胸に、僕たちはそれぞれの会社へ帰る道を歩き始めるのでした。